Two weeks 1
柔らかな肉に、たっぷりと包まれる感覚に、シンは大きく息をついた。
気持ちいい。
ものすごく、気持ちいい。
「っ・・・あ・・・ぁ・・・・」
腕の中から聞こえる、ひそやかな喘ぎ。
触れた肌は、熱く熟れて。
「アスラン、さん・・・」
恋人の名を呼び、シンは大きく腰を動かした。
「っ、あ・・・・」
抱きしめた体がびくりと跳ねて、しがみ付かれた背中にきりりと痛みが走る。
男の勲章、そんな言葉が不意に浮かんで、嬉しくなった。
いつもいつも、シンの方から誘ってねだって押し倒して。
自分から欲しがってくれることがないから、こうやって感じてくれてるのがわかるだけで、嬉しい。
「気持ちいい？アスランさん」
聞くと、大きくかぶりを振って、汗の浮いた額を肩に押し付けてきた。
恥ずかしくなっちゃったんだ。可愛い。
「よくないんですか？じゃあ、もっとしなきゃ」
「や、あっ、め、シンっ・・・」
意地悪く言って、更に深く、その熱い体をむさぼる。
高く上がった声と、感じて跳ねる体が、気持ちいい。
「あんた、感じ易過ぎ」
年上の恋人とのセックスは、少年の欲を十分に満足させ。
こんな素晴らしい人を得た幸福を、シンは思い切り噛み締めた。
「テストパイロット・・・でありますか？」
突然呼び出された艦長室、上官の前で慌てて取り繕い、それでもシンは不満げな様子を隠せなかった。
確かに、自分はインパルスのテストパイロットもやっていたけれど。
でも今は、自分はエースだという自負がある。
今更テストパイロットなんて。
「ええ、機体の運動性能に関するデータが取りたいらしいの。あなたがインパルスに乗ったときと、デフォルトのデータの違いに目をつけたらしいわ。このパイロットなら、どんな動きができるかって」
艦長上手いなと、その場の誰もが思った。
案の定、シンは目をきらきらさせて、「はいっ！」と元気良く答えている。
「では、明日０９００、本部の第４会議室に集合、ミーティングの上、出発とのことよ。細かいことはこれに書いてあるから、よろしくね」
はい、と電子書類を渡されて、シンは首を傾げた。
「格納庫じゃないんですか？」
「ええ、北アフリカの砂漠地帯で行うらしいから・・・二週間は見ておいて欲しいそうよ」
・・・・艦長、上手いなぁと、誰もが思った。
一度了承したものを、やっぱり嫌だとも言えず、足音荒く艦長室を辞したシンを、アスランはゆっくりとした歩調で追った。
「いいじゃないか、テストパイロット。最新の機体に乗れるなんて」
本気で羨ましそうに言う人に、シンはむくれて言い返す。
「そりゃ、あなたはそうかもしれないけど・・・２週間も砂漠ですよ？信じらんねぇ」
そうしてふと気が付いて、恨みがまし気に振り向いた。
「・・・てか、あんたたち２週間なにやってんですか？」
もしかして、暇なんじゃねえの？
「待機・・・かな。艦の修理もまだ終わってないし。ああ、俺は工廠に呼ばれてるんだ。大戦のときに世話になった整備員が開発にまわってて、見せたいものがあるんだそうだ」
そうだ。この人が暇なんかしてるわけなかった。
引っ張りだこの恋人が、誇らしいような悔しいような、そんな複雑な気持ちを抱えたとき、シンはあることに、気がついてしまった。
「ってコトは・・・あんたと２週間会えないってことですか！？」
思い切り衝撃を受けるシン。
「ああ、そうなるな」
淡々と頷くアスラン。
シンは、艦の通路だということも忘れて、へたり込んだ。
「そうなるなって・・・・」
時々、この人の愛を疑う。
いや、この人は、確かに俺を愛してくれていると思う。
ただ、それが博愛とどう違うのか、わからなくなるだけだ。
「シン？」
心配そうに、覗き込んでくる翠の瞳。
それを、睨んで。
「あんた、俺と２週間も離れてて平気なんですか？」
さすがにこのセリフは、鈍い恋人にもわかったようで。
でも。
「だって、たった２週間だろう？」
そんなことを、平気で言うから。
「俺、２週間もあんたに会えなかったらどうにかしちゃいますよ。」
アスランは無言で空を仰いだ。
えーと、えーと。
暫し、熟考した後。
「メール、入れるよ。許可が出たら、通信も・・・・」
「もういいです！」
シンは、弾かれたように立ち上がって走り出した。
部屋に駆け込んで、ドアを閉めるまで。
一度も、振り返らなかった。
始めは、自分に似ている彼が、自分と同じ轍を踏まないかと、心配していただけだった。
彼の怒りも悲しみも、アスランは理解できてしまったから。
しかし、自分が一度死ぬ思いをして得たことを、どうやって伝えたらいいのかわからなくて。
すれ違って、傷つけ合って。
気がついたら、彼の存在が、自分の中でひどく大きなものになっていた。
それは、彼も同じだったのだろう。
『だから好きだっつってんだろ！』
告白は、ひどく乱暴で。
それでも、自分で気づいた彼は偉いなぁと、鈍いアスランは本気で思う。
今日の件だってそうだ。
彼の言われるまで気づかなかった。
恋人に、２週間も会えないというのは、とても、寂しいものだと
はじめの一週間は、忙しいなりに淡々と過ぎた。
メールも通信もかなりしたけれど、それでも触れ合えないのは辛いな、と思い始めたのは一週間後。
思えば、付き合い始めてからこちら、ずっと同じ艦に乗っていたのだ。こんなに会えないのは初めてだった。
２週間が過ぎて、テストの延長が決まって。
画面の向こうで、シンがぎゃんぎゃんと吠えるのを眺めながら、アスランも深くため息をついた。
「だって！少なくとも１週間ってっ！じゃあもっと伸びるかも知れないってことですよ！」
「それが仕事だろ、お前」
「あんた俺に会えなくて寂しくないんですか」
「だから公用の通信でそういうことを大声で・・・」
「うわちくしょー！俺なんか毎日アンタのこと考えてヌイてんのに！」
「シン、怒るぞ」
「もう怒ってんじゃないですか！」
「怒ってない・・・、呆れてるだけだ」
突っ伏してしまったアスランに、何を思ったのかシンはぷつりと通信を切ってしまった。
通信兵の視線に痛いものを感じながら、アスランはよろめく足取りで部屋へと戻る。
「あの、馬鹿・・・」
シンは、アスランが寂しくないと本気で思っているのだろうか。
思っている、かもしれないな。
ちゃんと、言わなかったから。
でも、あんなことを大声で・・・
今更ながらに赤面する。
『うわちくしょー！俺なんか毎日アンタのこと考えてヌイてんのに！』
「あ、の、馬鹿・・・」
彼の言葉を、その指や体温と共に思い出してしまい、アスランは小さく身を竦ませた。
自分は、そんなことはしていない。
していないけれど。
していない、から。
最後にシンに触れられたあの夜以来、していない、から。
シンの声に点された、体の熱に、気づかされて。
「・・・の、ばかやろう・・・・・」
しかし、それをすぐに認めるには、アスランの理性は堅牢だった。
水でも被れば治まるだろうと、よろよろとシャワーへ向かう。
既に下着を押し上げていたものを、見ないように服を脱ぎ捨てて、痛いほどの冷水を、これでもかとざばざば浴びた。
それでも下がらない体温に、なんだかもう、泣きそうだ。
下肢で、どくどくと脈打つソレを情けなく眺めながら、冷えた床にへたり込み、それからシンの言葉を思い出す。
『俺なんか毎日アンタのこと考えてヌイてんのに！』
抜いて、しまえば。
楽になる、だろうか。
座り込んだまま手を伸ばして、シャワーを止める。
そうして、おそるおそる、ソレに手を伸ばした。
別に、したことがないわけではない。
それでも、そう頻繁にするわけではないので、いまだにおっかなびっくりだ。
軽く先端に触れただけで、たまらない快感が背筋を駆けた。
シンに慣らされた体が、憶えた快感を得たいと疼きだす。
『アンタのこと考えて』
シンのこと、考えて。
彼の指が、どうやってコレを弄るのかを思い出して。
意外と丁寧に絡みつく指。
時折、手のひらで軽く握られて。
「んっ・・・」
思わず洩れた声が、意外と大きくて、慌ててもう片方の手で口をふさぐ。
それでも、手は止まらずに。
「ん、ん、シン・・・」
口をついて出た名に、何故か体が余計に反応した。
『アンタ、感じ易過ぎ』
思い出した声に、たまらなくなって。
「あっ・・・・」
上りつめるのは、簡単だった。
「は、あ・・・」
ぐったりと浴槽に縋り、脱力感に身を任せる。
手のひらを濡らした生ぬるい粘液に、後ろめたさはあっても満足感はない。
それどころか。
「・・・・のばか・・・・」
小さな悪態は、恋人に対するものか、それとも、自分のことか。
吐き出してしまえば、それで治まるはずだったのに、シンに触れられた記憶は、アスランの体にそれでは済まない疼きを与えていて。
「・・・・・っ」
自分の精に濡れた指を、脚の間で逡巡させ。
それからアスランは、おそるおそる、その指をシンに愛され慣れた場所へと、触れさせた。
ひくり、と、そこが震えるのを指先で感じ、これからしようとしていることへの羞恥にまた、ためらう。
いつも、シンにいいようにされている場所だけれど。
自分で触れたことなど、なくて。
でも。
それでも。
飢えるような疼きに耐え切れずに、おずおずと、そこへと指を差し込んで、みる。
「んっ・・・」
たったそれだけで、じん、と弱い電流のような快感が、下肢に広がった。
シンに開かれるとき、まず、感じる心地良さ。
初めて触れた中は熱くて。
いやらしく、ほんの少し潜っただけの指先に、絡み付いてきて。
『気持ちいい？アスランさん』
甦る声に、いっそう煽られる自分を感じて、アスランは思わず唇を噛み・・・それでも、奥へと指を進めるのを止められない。
「ん・・・ん・・・・」
『よくないんですか？じゃあ、もっとしなきゃ』
もっと。
そう思って、指を増やす。二本目の指が入り口をくぐるとき、ぞくりと湧き上がった快に、ためらいが消えていく。
「あ・・・ァ」
思い出す、少年の体温。シンはいつも、奥のほうまで、指を入れて。
「はっ、ン」
背筋を駆け上がる快感。
そう、ここ。
彼に余裕があるときには、泣き出すまで、弄られて。
「ん・・・んっ、・・・ぁ」
知らないうちに、腰が揺れていた。
どこかもどかしい感覚に背を反らせると、無理な姿勢に指が抜けかける。
慌てて押し込むと、緩んだ襞がぐちゅりと音を立てて、今自分がしている行為の恥ずかしさを、惨くアスランに伝えた。
それでも、指が止まらなくて。
揺れる腰も、止まらなくて。
「シ、ン・・・・」
もっと感じたくて、無理やり指を増やす。
蠢く中の熱さが、更にアスランを追い立てた。
「っ、シン、シン・・・」
少年の息遣いを耳元に感じたような気がして、腰が砕けそうな波に襲われた。
浴槽にすがった指が滑って、きゅうっ、と擦れる音が妙に高く響く。
いつの間にか立ち上がっていたものが、冷たい浴槽の壁面に擦れて、思わぬ刺激に体が跳ねた。
「っ、あ」
このまま、イきそう。
そう思って、身を震わせたとき。
「アスランさんっ！」
蹴立てるように浴室の扉が開き、パイロットスーツの少年が呆然とそこに突っ立っていた。